大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(く)5号 決定

よつて按ずるに、原審が抗告人(被告人)に対する窃盗被告事件について、昭和二十五年七月二十四日保証金一万円にて保釈許可決定をしたところ、抗告人が同年十二月二十二日の原審第七回公判期日(判決言渡期日)に適式な召喚を受けながら無断不出頭の行為に出でたこと、次で翌二十三日原審は抗告人が前記保釈許可決定の指定の指定条件に違反したとの理由で前記保釈を取消し、保証金一万円没収の決定をしたこと並びに原審が右の如く保釈取消の理由とした「被告人が保釈許可決定の指定条件に違反した」というのは、右抗告人の所為が保釈取消の事由を規定した刑事訴訟法第九十六条に所謂「召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき」に該当することを意味していることは、本件記録並びに抗告人に対する前記窃盗被告事件の記録に徴し明白である。而して公判期日に召喚を受けた被告人が病気その他の事由で出頭することができないときは、裁判所の規則の定めるところにより医師の診断書その他資料を提出し、その事由を疏明して公判期日の変更を請求する手続をしなければならないのに拘らず、当時抗告人は被告人として何等かかる手続をとることなく漫然前記原審第七回公判期日に出頭しなかつたのであるから、この点から論ずれば、原審が右抗告人の不出頭を保釈許可決定の指定条件に違反したものとしてその保釈を取消し、保証金一万円を没取する決定をしたのは、一応当然な措置と見なければならない。しかしながら一方本件記録編綴に係る千葉市長洲町二丁目一一八番地柏戸病院の医師柏戸孝雄の抗告人森美夫に対する診断書並に同人に対する前記窃盗被告事件の記録編綴に係る昭和二十五年十二月二十七日附千葉市警察署勤務永井巡査作成の千葉警察長宛「収監指揮書執行不能について」と題する書面の各記載を綜合すると、抗告人は昭和二十五年十二月二十日より流行性感冒にかかり翌二十一日前記医師の診察を受けたところ当時発熱三八・七度、顏面潮紅、咽頭高度に発赤し、自覚的に頭痛[口矣]嗽あることが認められたこと並に右疾病の為め被告人に対する前記保釈取消による収監指揮書の執行が当時不能の状態にあつたことを窺い知ることができる。これによつてこれを見れば、被告人が原審の第七回公判期日に出頭しなかつたのは所論の如く前記疾病の為め止むをえずなされたものと認めるの外なく、従つて原審が右抗告人の不出頭を保釈許可の決定の指定条件に違反したものとしてその保釈を取消し、保証金没取の決定をしたのは失当であるといわなければならない。しかしながら一件記録に徴すると、抗告人は前記窃盗被告事件について先に当裁判所において言渡された懲役刑の執行の為め目下千葉刑務所において服役中であることが認められるので、今や原決定を取消しても、その実益がなく従つて本件については、最早法律上抗告の申立ができない状態に立ち至つているかのように考えられるのであるが、一方記録によると前記保釈保証金一万円は今なお原審において保管中であることが認められるから、この点において原決定を取消すことに実益があり、従つて本件抗告は適法というべく、且原決定の失当なることは前述のとおりである。

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